住宅業界の脱炭素のための取り組み最前線〜後編〜
木材の利活用を進める
前回は、住宅の高性能化、再生可能エネルギーの利用の2つに注目して
住宅業界の脱炭素への取り組みを紹介しましたが、建材の脱炭素化もポイントの1つです。
木材は、鉄やコンクリートに比べ、製造時のCO2排出量が少ないとされており、
さらに成長過程で炭素を固定することから、カーボンネガティブ資材として注目されています。
木材の利活用に定評のある住友林業は、ホームページ上で木造住宅は鉄骨住宅に比べ、
CO2排出量が60%削減されると訴求しており、木材に含まれる炭素固定分も含めると、
木造住宅は96%相当のCO2削減効果があると伝えています。
もちろん、このような環境効果は住宅以外の建物にも当てはめることができます。
木材の利活用は、カーボンニュートラルの1つの鍵と言えます。
建物の木造化という点で近年話題となったのが、
AQ Groupが純木造8階建の本社ビルを建築したことです。
同社屋の炭素貯蔵量は1,444t-CO2で、一般木造住宅に換算すると95棟分。
CO2排出量削減については、鉄筋コンクリート造と比較すると43%の削減だと言います。
同社は、この社屋をはじめとした木造大型建築のノウハウを活かし、
木造マンションを普及価格で実現していく「AQ FOREST」を開始しています。
このAQ FORESTも、一般的なRC造と比べてCO2排出量を約半分に低減するとしています。
さらに同社は、木造建築普及のために、地域の工務店や中小ゼネコンに対して
中大規模木造建築の技術を提供する「フォレストビルダーズ」を発足。
木造建築を通して、環境負荷低減に貢献するとしています。
2025年改正建築基準法では、中層木造建築物の耐火性能基準が合理化され、
階数5以上9以下の建築物の最下層部分が90分耐火性能であれば、
木造での建築が認められるようになりました。
これにより、これまで技術的なハードルが高かった中層木造建築が、
より現実的な選択肢として検討できるようになったと言えます。
また、CLT工法など、木造建築の可能性を広げる技術が注目を浴びてきている昨今、
低層住宅以外でも木材の利活用を進めることの機運が高まっていると言えるでしょう。
新築以外にも力を入れよ
脱炭素への道のりでは、新築住宅に限らず、既存住宅の断熱改修も重要です。
日本の既存住宅の多くは、断熱性能が低く、光熱費とCO2排出の増加要因となっています。
以下、住宅会社の断熱改修に関わる取り組みを見てみましょう。
2025年1月、積水化学工業は鉄骨系住宅「セキスイハイム」の既存住宅を対象とした
断熱リノベーション「あったかハイム TR」に、外壁の断熱性能を向上する新仕様を追加しました。
同仕様は、充填断熱工法の既存外壁を二重壁化し、
屋外側に断熱材を付加する、同社初の外張り断熱リフォーム工法。
あったかハイム TRにパッケージ化することで、
従来からワンランク上の断熱等級6相当まで対応可能としています。
これまで外壁の断熱改修は、壁を取り壊して断熱材を交換・補充する方法が用いられることが多く、
家具や荷物の移動・片付け、仮住まいなどが居住者の負担となっていましたが、
建物の外側から施工する外張り断熱工法を採用することで、それらの負担を軽減できるとします。
自宅に住まいながら断熱性向上を可能とすることが、
断熱改修のハードルを下げる効果を期待できます。
地場の工務店でも断熱改修に力を入れている会社は見ることができます。
例えば、三重県の舘建築は、1982年築の木造2階建住宅の断熱リフォームを実施。
同物件では土壁には外断熱を施し、断熱リフォーム工法で気密性を向上したほか、
天井の吹き込み断熱や断熱パネルによって性能を強化しています。
改修後、UA値は0.49W/m2Kまで向上しています。
同事例では当初計画していた部分的なリフォームに加え、
補助金を活用した家全体の断熱改修も提案したと言います。
昨今の補助金制度は、高断熱窓や高効率給湯器への改修にも
手厚く補助金が提供されるようになっており、
それを活用して改修を推進し、脱炭素に寄与していくというのも一つの手でしょう。
居住中の住居に限らず、空き家を改修することも有用です。
空き家を改修して太陽光発電や防災設備を備えた施設に
再生させるなどといった事例も出てきており、
そういった取り組みは社会的な意義が大きいと言えます。
解体時にもCO2が排出されてしまいますし、真にエコだとは言えないでしょう。
新築に頼らず、既存ストックを最大限活かしていくことが
カーボンニュートラルに向けては大切だと言えます。
(情報提供:住宅産業研究)