住宅業界の脱炭素のための取り組み最前線〜前編〜
住宅業界では脱炭素社会の実現に向けた取り組みが加速しています。
そもそも住宅は建設時・使用時ともに多くのエネルギーを消費し、
CO2排出の要因となることから、業界全体での転換が求められていました。
そのため、国の政策と市場のニーズが連動する形で、
省エネ性能の向上や再生可能エネルギーの導入などが推進されており、
その動きは激しいと言えます。
今回と次回の配信では、住宅業界における脱炭素の最新動向を見ていきます。
まずは高性能化の徹底を
まず、住宅の高性能化は脱炭素における基盤的な取り組みです。
高気密高断熱の住宅は冷暖房効率を高め、日々のエネルギー消費を削減します。
2025年4月からは新築住宅に断熱等級4の適合が義務化され、
2030年にはZEH水準の断熱等級5の義務化が予定されています。
このように、脱炭素を背景に住宅の高性能化は業界全体として進んでおり、
各社がそこに対応、およびその状況化で差別化するために様々な取り組みを行っています。
ハウスメーカーでは断熱等級7に対応する商品を持つことが当たり前となってきました。
2024年はハウスメーカー各社で等級7を満たす商品のリリースが続き、
各社が技術力のアピールや、ハイグレードな住宅を求めるお客様への訴求に役立てています。
また、ハウスメーカー以外にも、
各住宅FCでも断熱等級7に対応する住宅商品は散見されるようになってきました。
さらに、補助金制度の活用のために、
GX志向型住宅の要件である断熱等級6を満たす仕様を
プッシュする会社が増えてきたことにも注目したいところです。
この動きはハウスメーカーなどの規模の大きい会社に限らず、
地域の工務店にも広がっています。
注文住宅に加えて、分譲住宅でも高性能化は進んでいます。
例えば、岡山県のライフデザイン・カバヤは
2025年4月から「コンセプト分譲住宅」シリーズの展開を開始しました。
このシリーズは、コンセプトを設定することでアピールポイントを明確化し、
それぞれの住宅が持つ特徴や価値を生活者にわかりやすく伝えられるとしているほか、
性能については断熱等級6、制振装置採用、長期優良住宅認定などを標準仕様としています。
そのほか、戸建住宅に限らず、共同住宅でも高性能化は進んでいます。
賃貸住宅の雄、大東建託は2025年4月にZEHオリエンテッド基準を
標準仕様としたRC造の賃貸住宅「LIGNO ZEH」をリリース。
同社は、この商品の発売により、木造、鉄骨造、RC造という主要な構造タイプ全てにおいて、
ZEH標準仕様での賃貸住宅商品の提供を可能としました。
分譲マンションについては、大京および穴吹工務店が手掛ける
「八幡山サステナブル共同住宅プロジェクト」がその一例です。
このマンションはZEH-Mを住棟で達成するとともに、全住戸でZEH基準を達成しています。
再生可能エネルギー利用の促進
太陽光発電や蓄電池といった再生可能エネルギーの導入も、
住宅の脱炭素化に直結する重要な要素です。
これらの設備機器導入を促すため、
2024年4月には建築物再生可能エネルギー利用促進区域制度が施行されました。
同制度では、自治体が特定区域で再エネ導入を促進する計画を策定可能となり、
建築士の説明義務や設置義務が明文化されました。
再生可能エネルギー利用に関する直近のトピックとしては、
一次エネルギー消費量等級にZEH水準を上回る
等級7・8を追加する方針が検討されていることが挙げられます。
また、前述の高性能化とも大きく関わってくるところですが、
2025年5月にZEHの定義について、経産省から見直し案が示されたことにも注目すべきでしょう。
この見直し案では、戸建住宅、集合住宅ともに、断熱・省エネ性の要件をGX志向型住宅と同じ、
断熱等級6・一次エネルギー消費量削減率35%以上に引き上げ、
戸建住宅ではさらに蓄電池と高度エネルギーマネジメントを要件に追加すると示されました。
国は、再生可能エネルギー利用機器の導入を
より進める必要性があると感じていると言えるでしょう。
再生可能エネルギーに関する取り組みの1つの例が、
大和ハウス工業の分譲地「セキュレア豊田柿本(愛知県豊田市)」内の
「エネルギー自給住宅」です。
同プロジェクトでは、太陽光発電と2台のリチウムイオン蓄電池、
および主に昼間に作動する仕様にしたヒートポンプ給湯機のほか、
ZEH基準を超える断熱性能、パッシブデザインを導入。
これらにより、街区内のオール電化住宅の電力自給率が20%程度であるのに対し、
エネルギー自給住宅では約60%に向上したと言います。
ハウスメーカーなどの大手では、
太陽光発電および蓄電池の提案はある程度定着してきている一方、
地場のビルダーでは、イニシャルコストが嵩むこともあり、
特に蓄電池の提案は積極的でない傾向があります。
もちろん、お客様のニーズがあってこそのことですが、
国の意向等も考慮し、今後に備えておくことも大切でしょう。
(情報提供:住宅産業研究)